モリエール「人間ぎらい」
フランス貴族たちの社交界を舞台とした戯曲。
主人公のアルセストは社交界を憎んでいた。本人の前ではお世辞を並べ立て、いなくなると悪評の噂に悪口三昧…。そんな俗物たちにうんざりしていたアルセストだが、なぜかそれらの中心人物である未亡人セリメーヌに恋をしている。
登場人物はすべて典型人物である。劇画化され、現実離れしているが、それでもどこか実際に存在しそうに思えてしまう。読む人によって、それぞれの人物に自分の知人を重ね合わせてしまうであろう。これはモリエールの卓越した人物描写による。名作が時代を越えて読まれるのは、ここに理由があるのではないか。
喜劇であるため、テンポよくあっさりと書かれている。しかしアルセストの厭世的な言動は悲痛であり、そしてセリメーヌの社交的な振る舞いにもどこか虚無的なものがある。行間からは、モリエールの人間嫌いが滲み出ているのだ。