愧為読書誤一生

ブログという名の読書ノート

内田百閒「東京日記」

 23章の幻想的な短文で構成された小説である。すべて東京を舞台にしており、日記の形式で書かれているが、各章は実質独立しており、関連していない。

 

 地震によって揺れたお濠からは、牛よりでかい鰻が這い出して線路を数寄屋橋の方に伝う。とんかつ屋で食事をしていると、いつの間にか周りの客は犬だか狐だか解らない獣が洋服を着たものになっている。行きずりの女の家に行くと水浸しで、鼠を二つつないだくらいの足なんかまるでないような獣が、体中を歯のない口でちゅうちゅう噛みついてくる。富士山が噴火しても誰も気にせず、犬が鳴くので夜に目を覚ますと、小さい木兎(みみずく)が段々と部屋を満たしてくる。待合で酔って寝ていると、芸妓が眼玉を舐め廻して「こちらの目玉おいしいわね」と言う。

 用があって丸ビルまで行くと、跡形もなく無くなっている。近くの人に聞いても要領を得ない。翌日に行くと元通りビルが建っているので、中の人間に聞いても昨日は都合で休んだと言われるだけだ。これだけ大きな建物になれば時々はそういう不思議なこともあるだろうと考えて、昨日の跡地の水たまりにいたアメンボウを心配しながら帰る。

 

 不条理な夢のような話の数々だが、他人事のような突き放した文体によって、粘りっこさは無くあっさりと描かれている。イメージが鮮明に思い浮かぶのは、美文家内田百閒のなす業であろう。

 

岩波文庫「東京日記 他六篇」内田百閒

東京日記 他六篇 (岩波文庫)

東京日記 他六篇 (岩波文庫)