愧為読書誤一生

ブログという名の読書ノート

芥川龍之介「南京の基督」

 貧しさのために買春で生計を立てる十五歳の少女は、五歳で洗礼を受けた耶蘇教徒であった。梅毒を病んで客を取れず、「誰かに移せば治る」という同輩からの迷信じみた忠告をにも、耳を貸さずに祈禱を続けていた。

 客を取れずぼんやりと過ごしていたある日、東洋人か西洋人か見分けのつかない外国人が訪れる。少女はその泥酔した外国人の顔に既視感を覚え、彼こそは耶蘇基督ではないかと思い、身を任せる。翌朝目覚めるとすでに外国人はいなくなっており、少女の梅毒は完治していた。『「ではあの人が基督様だったのだ」』少女は跪いて熱心な祈禱を捧げた。

 実際には、その外国人はただの英字新聞の通信員で、南京で売春婦を買って寝ている間に金を払わず逃げたことを言いふらしていた。彼はその後、梅毒を病んで発狂したらしい。

 少女の梅毒が本当に完治したのか、一時的に症状がおさまっているのかどうかはわからない。確かなのは、少女が奇跡を疑いなく信じており、これからも祈禱を絶やすことがないということだけだ。

 

 

角川文庫「杜子春」収録

杜子春 (角川文庫)

杜子春 (角川文庫)