愧為読書誤一生

ブログという名の読書ノート

山田風太郎「室町少年倶楽部」

 室町幕府第八代将軍、足利義政

 兄の早世により、将軍職を継ぐものとして母や家臣連から寵愛を受けて育てられる。

 諸大名のお家騒動などのネバネバとした政治に巻き込まれるのを疎んだ義政は、正式な将軍就任前に出家を志すこととなる。家臣は大慌てで側妾をあてがい、俗世につなぎとめる。義政も気に入り、側妾との間に子供ができるが、正妻が決まるとその一族の謀略によりお腹の子とともに惨殺されてしまう。

 激昂した義政は正室と家臣を呼び出すが、彼らは足利家のため、天下のためと繰り返すだけであった。

 

『「・・・お前らはこの先もおなじようなことをいい、おなじようなふるまいをつづけるであろう。義政はそれも知っておる。えい、好きなようにやれ、わしも好きなようにやる。お前らと同じく、人間でない人間としてな」』

 

 飢饉が日本を襲い、京の町が餓死者の死体であふれ、諸大名が下剋上の動きをみせていた。そのなかで義政は、祖父義満が作り上げた金閣寺に代表される北山山荘に匹敵する、銀色の大千世界を作ろうとする。みかねた家臣が意見をしても、聞く耳を持たない。

 

『「上様、それはしかし、それでは天下が滅びまする!」

 「天下は滅ばば滅びよ!世は破れば破れよ!あははははは!」

 義政は笑った。

 「お前のいう天下とは、私欲背信、魑魅魍魎の世界じゃ。百姓町人とて、自由狼藉、下剋上の餓狼の群れじゃ。そんなやつらがいかに騒ごうと、ひしめこうと、泣こうと、わめこうと、もともとが無意味な渦なのだから、やがて泡のごとくあとかたもなく消え失せる。わしの作った美の世界は、いつまでも地上に残る。ーーみんな、やりたいことをやらせろ」』

 

 

 政治的には無能な将軍であったと言われることが多い義政だが、文化への功績は群を抜いている。歴史は後世が評価するのだ。

 

河出文庫婆沙羅/室町少年倶楽部山田風太郎傑作選 室町編』収録