愧為読書誤一生

ブログという名の読書ノート

絶対の真理〈天台〉 仏教の思想Ⅴ

 天台宗は、中国の南北朝時代から隋にかけての僧侶である智顗を開祖とする。妙法蓮華経法華経)を根本経典とし、天台法華とも呼ばれる。

 智顗は法華経を元に、独自の教説を二つ唱えた。一念三千と三諦円融である。

 一念三千は、天台における世界観である。三千は三千世界、つまりはこの世界に存在するすべてのものを意味する。この世界のすべてのものは、一念つまりは一瞬の心の中に含まれているとされる。

 対して、三諦円融は実践哲学となる。三諦とは空・仮・中の三つの真理を自覚することだ。すべて存在するものは空しい(空)が、それを強調するとニヒリズムに陥る。そこで、空なものを仮に肯定(仮)する。しかし、あまりにも現実を全面的に肯定すると、享楽主義に陥る。仮諦と空諦の相互否定(中)が中諦だが、この三つの諦を渾然として一体化させることが、三諦円融、つまりは人生のさとりの究極となる。

 

 現在、日本仏教において天台宗の力は強くない。同じ平安仏教の真言宗と比べても、歴然としている。しかし、最澄が叡山にたてた延暦寺は、日本仏教の母体であった。鎌倉仏教を代表する法然親鸞道元日蓮は、いずれも叡山で出家したのだ。

 叡山の天台宗大乗仏教の総合的思想体系樹立を目指した。いわば大乗仏教の総合大学であったのである。卒業生はそこで学んだ大乗仏教思想から、各々浄土信仰・禅・法華経のいずれかを特に重要視し、独自の思想を確立するに至った。

 

 角川ソフィア文庫 「仏教の思想5 絶対の真理〈天台〉」