大江健三郎
小説というものは通常、読者を想定して書かれるものである。したがって、その物語について何の事前情報も持っていない、第三者としての読者に向けて書かれていく。 しかしこの小説は、書き手が双生児の妹に向けて書いた、自分たちの出生地の神話と歴史につい…
『夜明けまえの暗闇に眼ざめながら、熱い「期待」の感覚をもとめて、辛い夢の気分の残っている意識を手さぐりする。内臓を燃えあがらせて嚥下されるウイスキーの存在感のように、熱い「期待」の感覚が確実に躰の内奥に回復してきているのを、おちつかぬ気持…
大戦末期、感化院(今でいう少年院)の院児たちは空爆を避けて、山の奥の僻村に集団疎開させられる。そこでは疫病が流行し始め、院児の一人の死亡をきっかけに村人は、院児たちを置いて隣の村に避難してしまう。唯一の交通手段であるトロッコの軌道を遮断さ…