愧為読書誤一生

ブログという名の読書ノート

認識と超越〈唯識〉 仏教の思想Ⅳ

 インドで生まれた唯識思想は、西遊記で有名な三蔵法師玄奘の漢訳仏典により、日本に紹介された。唯識思想は、日本仏教の出発点である。

 唯識とは、ただ表象があるのみで、外界の存在物はないとする思想である。我々が目の前のコーヒーカップを見るとき、そこにコーヒーカップがあると考えるのではなく、我々の心が描いたコーヒーカップが、目の前に表象として現れていると考える。コーヒーカップは、我々の心が作り出している表象にすぎないということだ。

 この表象は、我々の心の根底にあるアーラヤ識から生じる。アーラヤ識は、ユングのいう集合的無意識に似た概念である。輪廻転生の根拠はアーラヤ識であり、煩悩を断ち切り、このアーラヤ識を転換させることで、涅槃に至ることができる。これが唯識の教えである。

 

 共著者の哲学者上山春平は、仏教思想におけるアビダルマ・中観・唯識の流れを、西洋哲学と比較する。ヨーロッパ近代哲学における大陸合理論(テーゼ)・カントの批判哲学(アンチテーゼ)・ヘーゲルの思弁哲学(ジンテーゼ)である。この分類によれば、唯識は、アビダルマの形式論理学に対する弁証法論理学となる。

 

 角川ソフィア文庫「仏教の思想4 認識と超越〈唯識〉」