愧為読書誤一生

ブログという名の読書ノート

2018-01-01から1年間の記事一覧

ヘンリー・ジェイムズ「ねじの回転」

物語の核をなす手記の書き手である女性は、住み込み家庭教師の広告に応募した。広告主は両親を亡くした甥と姪の後見人になっている。その兄妹の住む田舎の屋敷に、家庭教師を兼ねて責任者として赴任してほしいとの依頼だった。条件は「主人(依頼者)を絶対…

会田雄次「アーロン収容所」

ルネサンス史を専門とする学者である著者は、終戦直後から一年九カ月の間、ビルマにおいて英軍の捕虜生活を送った。そこでの強制労働の日々とイギリス人に対する憎悪、現地のビルマ人やインド兵との交流が記されている。 不潔な環境と重労働はもちろんだが、…

三島由紀夫「潮騒」

『歌島は人口四百、周囲一里に充たない小島である。』 都会の喧騒から離れた小島を舞台に、漁師の青年と海女の少女の純真無垢な恋物語が描かれる。 物語の筋に何も特別な仕掛けはなく、ありきたりな障害を乗り越えて二人は結ばれる。登場人物はほとんどが善…

ヘミングウェイ「日はまた昇る」

第一次世界大戦後のパリには、アメリカの画家や詩人、作家などの芸術家によるコミュニティが形成されていた。多くは酒に溺れた自堕落な生活を送っており、彼らのためにサロンを開いていたガートルード・スタインには、ロストジェネレーション(自堕落な世代…

三島由紀夫「仮面の告白」

小説の書き手である主人公が、幼少期から青年に至るまでの性遍歴を回顧する形で語られていく。 病弱な身体に生まれた<私>は、肉体労働に励む男たちに憧れにも似た倒錯した欲望を感じる。日焼けした筋骨隆々の肉体に深い憧憬を抱きながら、その身体に槍やナイ…

三島由紀夫「金閣寺」

1950年7月2日、青年僧の放火によって金閣寺が焼失した。大谷大学の学生であった吃音症の犯人は、「世間を騒がせたかった」「社会への復讐のため」と動機を語った。三島由紀夫の「金閣寺」はこの事件をモデルとしている。 独白体で綴られたこの小説は、吃音症…

内田百閒「東京日記」

23章の幻想的な短文で構成された小説である。すべて東京を舞台にしており、日記の形式で書かれているが、各章は実質独立しており、関連していない。 地震によって揺れたお濠からは、牛よりでかい鰻が這い出して線路を数寄屋橋の方に伝う。とんかつ屋で食事を…

大江健三郎「同時代ゲーム」

小説というものは通常、読者を想定して書かれるものである。したがって、その物語について何の事前情報も持っていない、第三者としての読者に向けて書かれていく。 しかしこの小説は、書き手が双生児の妹に向けて書いた、自分たちの出生地の神話と歴史につい…

芥川龍之介「或阿呆の一生」

親友の久米正雄に託された遺稿である。或阿呆とは芥川自身のことだ。序文にはこうある。 『…僕は今最も不幸な幸福の中に暮らしている。しかし不思議にも後悔していない。ただ僕のごとき悪夫、悪子、悪親を持ったものたちをいかにもきのどくに感じている。で…