愧為読書誤一生

ブログという名の読書ノート

2020-01-01から1年間の記事一覧

絶対の真理〈天台〉 仏教の思想Ⅴ

天台宗は、中国の南北朝時代から隋にかけての僧侶である智顗を開祖とする。妙法蓮華経(法華経)を根本経典とし、天台法華とも呼ばれる。 智顗は法華経を元に、独自の教説を二つ唱えた。一念三千と三諦円融である。 一念三千は、天台における世界観である。…

ウラジーミル・ソローキン「青い脂」

『一月二日 やあ、お前。 私の重たい坊や、優しいごろつきくん、神々しく忌まわしいトップ=ディレクトよ。お前のことを思い出すのは地獄の苦しみだ、リプス・老外、それは文字通り重いのだ。 しかも危険なことだ――眠りにとって、Lハーモニーにとって、原形質…

認識と超越〈唯識〉 仏教の思想Ⅳ

インドで生まれた唯識思想は、西遊記で有名な三蔵法師玄奘の漢訳仏典により、日本に紹介された。唯識思想は、日本仏教の出発点である。 唯識とは、ただ表象があるのみで、外界の存在物はないとする思想である。我々が目の前のコーヒーカップを見るとき、そこ…

山田風太郎「室町少年倶楽部」

室町幕府第八代将軍、足利義政。 兄の早世により、将軍職を継ぐものとして母や家臣連から寵愛を受けて育てられる。 諸大名のお家騒動などのネバネバとした政治に巻き込まれるのを疎んだ義政は、正式な将軍就任前に出家を志すこととなる。家臣は大慌てで側妾…

空の論理〈中観〉 仏教の思想3

第三巻は、龍樹(ナーガールジュナ)の主著である『中論』を中心として中観思想が考察されている。 中観思想の根本的な考えは、般若経の「一切は空である」との言葉に表現されている。最高の真実としては、一切のものは空であり、いかなるしるし、つまり言葉…

安部公房「けものたちは故郷をめざす」

大日本帝国の敗戦後、満州国は滅亡した。満州で生まれ育った久木久三は、唯一の肉親である母を亡くす。孤児となった久三は、一度もその地を踏んだことのない故郷、日本を目指すこととなる。 その道のりはあまりにも険しいものだった。機関車は共産党と国民党…

存在の分析〈アビダルマ〉 仏教の思想2

ブッダは、自らが教える真理を「ダルマ(法)」という語で呼んだ。「アビダルマ(対法)」とは、ダルマに対する学習・研究を意味する。 ブッダ没後、学僧たちは数多くの部派・学派に分裂しながらも、ブッダの教えを1つの思想体系にまとめあげる努力をした。…

知恵と慈悲〈ブッダ〉 仏教の思想1

仏教の思想は、昭和四十年代に角川書店から刊行された全十二巻に及ぶシリーズものであり、現在は角川ソフィア文庫で手に入れることができる。 四巻ごとにインド篇・中国篇・日本篇と分かれている。企画者は哲学者であり、第一部で仏教学者がテーマとなる思想…

芥川龍之介「疑惑」

講演のために岐阜県下の大垣町に滞在する私は、ある夜、不気味な男の訪問を受ける。自分の身の上話を聞いてほしいとの頼みだ。 中村玄道と名乗る男は、妻と二人で暮らしていた。明治二十四年の濃尾の大地震の時、家が倒壊し、妻の下半身が梁の下敷きとなって…

フォークナー「アブサロム、アブサロム!」

アーネスト・ヘミングウェイとウィリアム・フォークナー。共にアメリカのロストジェネレーション世代を代表する作家である。 ヘミングウェイは記者として第一次世界大戦・スペイン内戦に積極的に関わった。世界中を飛び回り、その経験を下地に小説を書いた。…

内田百閒「ノラや」

夏目漱石を師とし、陸軍士官学校や法政大学でドイツ語教授を務めるかたわら、幻想的な小説を得意とした内田百閒。気難しく厳格なイメージの強い百閒だが、七十歳間際に書かれたこの随筆は、かわいがっていた野良猫のノラが失踪して、人目も憚らずに毎日ボロ…