愧為読書誤一生

ブログという名の読書ノート

ヘンリー・ジェイムズ「ねじの回転」

 物語の核をなす手記の書き手である女性は、住み込み家庭教師の広告に応募した。広告主は両親を亡くした甥と姪の後見人になっている。その兄妹の住む田舎の屋敷に、家庭教師を兼ねて責任者として赴任してほしいとの依頼だった。条件は「主人(依頼者)を絶対に煩わせないこと。主人には一切迷惑をかけないこと」である。

 兄妹は聡明であり可憐で、屋敷での生活は不自由なく過ぎていく。しかし、家庭教師が二人の幽霊を目撃することで、屋敷に不穏な空気が流れ始める。幽霊は昔屋敷で働いていた下男と、前任の家庭教師である。家政婦の話では、この男女の間には関係があり、兄弟とも仲がよかったようだ。

 幽霊とはいっても、家庭教師以外に証言したものはいない。兄妹と一緒にいるときに出現することがあっても、彼らはそれに対して反応はしない。兄妹は見えているとも見えていないとも取れるような態度をとる。

 この兄弟の曖昧な態度により、家庭教師の不信感が増していく。悲劇的な結末が待ってはいるが、最後までその真意はわからない。幽霊が実際に存在したのか、あるいは家庭教師の妄想の産物なのか、明らかにされないのだ。ヘンリー・ジェイムズの筆力により、読者は二通りの解釈を突き付けられる。批評家たちの百年以上に渡る論争を眺めて、作者はあの世でほくそ笑んでいることだろう。

 

 岩波文庫「ねじの回転・デイジーミラー」行方昭夫訳

ねじの回転デイジー・ミラー (岩波文庫)

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