愧為読書誤一生

ブログという名の読書ノート

三島由紀夫「奔馬 豊饒の海(ニ)」

 1876年、構成員の多くが神職からなる熊本の神風連は、明治政府の近代化政策に不満を抱き反乱を起こした。

 松枝清顕の生まれ変わりである飯沼勲は、神風連の伝説に傾倒していた。昭和の神風連を目指す勲は、学校で同志を集め、腐敗した政治家や財界人を殺害したのち、昇る日輪を拝しながら自刃することを夢見ていた。

 しかし後ろ盾となっていた軍人の支援が望めなくなると、仲間たちは一人二人と離脱していく。それでも勲は計画を縮小しつつも、決行の決意を曲げなかった。明後日に計画を控えた日、一部の人間にしか教えていない隠れ家に警察が踏み込み、全員逮捕されてしまう。

 裁判により刑を免除された勲は、警察に密告したのは自らの父親であり、さらに父親に隠れ家の場所を教えたのは、恋人の慎子であることを知ることとなる。信じる者たちにことごとく裏切られた勲は、涙を流しながら父に訴える。

 

『「僕は幻のために生き、幻をめがけて行動し、幻によって罰せられたわけですね。……どうか幻でないものがほしいと思います」

 「大人になればそれが手に入るのだよ」

 「大人になるより、……そうだ、女に生れ変ったらいいかもしれません。女なら、幻など追わんで生きられるでしょう、母さん」

 勲は亀裂が生じたように笑った。』

 

 勲は監視の目を盗んで逃げだし、財界の大物蔵原武介を殺害する。追手が迫っていたため、日の出まで自刃を待つことはできない。段々畑に身を潜め、夜の海を前に切腹する。

 

『正に刀を腹に突き立てた瞬間、日輪は瞼の裏に赫奕と昇った。』

 

 

 三島由紀夫豊饒の海四部作を書き終えたあと、自衛隊のクーデターを呼びかけて割腹自殺をしている。三島の瞼の裏に、赫奕たる日輪は昇ったであろうか。

 

 

新潮文庫奔馬 豊饒の海(二)」

豊饒の海 第二巻 奔馬 (ほんば) (新潮文庫)

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