愧為読書誤一生

ブログという名の読書ノート

三島由紀夫

三島由紀夫「天人五衰 豊饒の海(四)」

帝国信号通信所に勤める十六歳の少年安永透の左脇腹には、三つの黒子が並んでいた。松枝清顕の生まれ変わりであることを確信した本多繁邦は、彼を養子に迎えて、教育を施すことにする。松枝清顕、飯沼勲、ジン・ジャンの三人を襲った、二十歳で夭折する運命…

三島由紀夫「暁の寺 豊饒の海(三)」

松枝清顕の親友本多繁邦は、五十代になっていた。 弁護士として大成し資産家となった本多は、自ら「客観性の病」と呼ぶ、覗きの趣味を覚えていた。松枝清顕の生まれ変わりと思われる、日本に留学中であるタイの王女ジン・ジャンに思いを寄せ、御殿場二ノ岡の…

三島由紀夫「奔馬 豊饒の海(ニ)」

1876年、構成員の多くが神職からなる熊本の神風連は、明治政府の近代化政策に不満を抱き反乱を起こした。 松枝清顕の生まれ変わりである飯沼勲は、神風連の伝説に傾倒していた。昭和の神風連を目指す勲は、学校で同志を集め、腐敗した政治家や財界人を殺害し…

三島由紀夫「春の雪 豊饒の海(一)」

三島由紀夫が傾倒していたフランスの哲学者ジョルジュ・バタイユは、禁忌(タブー)の侵犯こそがエロティシズムの本質であると著書「エロティシズム」で書いている。「春の雪」は、この思想を小説において表現したものだ。 大正時代、侯爵家の跡取りである松…

三島由紀夫「潮騒」

『歌島は人口四百、周囲一里に充たない小島である。』 都会の喧騒から離れた小島を舞台に、漁師の青年と海女の少女の純真無垢な恋物語が描かれる。 物語の筋に何も特別な仕掛けはなく、ありきたりな障害を乗り越えて二人は結ばれる。登場人物はほとんどが善…

三島由紀夫「仮面の告白」

小説の書き手である主人公が、幼少期から青年に至るまでの性遍歴を回顧する形で語られていく。 病弱な身体に生まれた<私>は、肉体労働に励む男たちに憧れにも似た倒錯した欲望を感じる。日焼けした筋骨隆々の肉体に深い憧憬を抱きながら、その身体に槍やナイ…

三島由紀夫「金閣寺」

1950年7月2日、青年僧の放火によって金閣寺が焼失した。大谷大学の学生であった吃音症の犯人は、「世間を騒がせたかった」「社会への復讐のため」と動機を語った。三島由紀夫の「金閣寺」はこの事件をモデルとしている。 独白体で綴られたこの小説は、吃音症…

三島由紀夫「椅子」

三島由紀夫は祖母の部屋で育てられた。病弱な祖母は、この孫を外に出すのを嫌がり、自分の枕元で音をたてずに静かにさせておいたのだ。短編の前半は、この当時の母親の手記からの引用で占められている。 『「朝から午後まで、うす暗い八畳の祖母の病室にとじ…

森鴎外「杯」

『温泉宿から皷が滝へ登って行く途中に、清冽な泉が湧き出ている。 水は井桁の上に凸面をなして、盛り上げたようになって、余ったのは四方に流れ落ちるのである。 青い美しい苔が井桁の外を掩うている。 夏の朝である。』 一文一文が短く、簡潔で力強い。漢…

ジャン・ジュネ「泥棒日記」

三島由紀夫は評論「ジャン・ジュネ」でこのように書いている。 『サルトルが、ジュネは悪について書いたのではなく、悪として書いた、と言っているのは正しい。』 ジュネはパリで娼婦の腹から生まれた。父親はわからず、母親からも生後七カ月で捨てられた。…